走った 走った 生まれて初めての 優しさが 温もりが まだ信じられなくて

「大きな扉 小さな鍵」感想続きです。前回は致命的ネタばれはしなかったのでフィルタリング等無しでしたが、今回は直球なのでご注意をば。





















さて、結論から言うと今巻でも瞳子は妹にはならなかったわけですが、今巻はそれで正解だったとおもいます。なぜなら、祐巳一人が与えられるものだけでは瞳子を幸せにはなれないからです。

瞳子の根っこにあるもの、それは「自分は幸せになってもいいの?」という負い目ではないでしょうか。それこそ育ての親に対しても「ギブ&テイク」の関係を求めてしまうほどの。
瞳子は本当に聡明で良い子なので、自分に与えられた愛の価値を理解してしまっているんですね。ゆえに悩む。与えていないのにもらっていることに罪悪感を覚えている。

でも、心のどこかでは欲しがっているわけです。信じることが出来るほどの愛を。
そして、瞳子がとった行動といえば、自分を愛してくれるものに牙を向け逃げ出すというものでした。
資格がない(と思い込んでいる)から受け取るわけにはいかないけれど、それでも追いかけてくれることを期待しながら。 逃げ出してもなお追いかけてくれるものがあるとすれば、それこそが信ずるに足るものであり、心から欲しいものだからです。

で、結果として瞳子はすべてを失いかけました。
それを救ったのが乃梨子なわけですが、乃梨子瞳子の希望にはなり得ても、やはり祐巳と同じように乃梨子だけでは瞳子は幸せにはなれないような気がします。

瞳子に必要なもの。それは「祝福」だと思いました。誰か一人、あるいは何人かによって救いを得るのではなく、瞳子は「祝福」されてこそ幸せになれるのです。また、その「祝福」の中でこそ姉妹の契りは意味をなすものになるのでしょう。
今巻はいわばそのための伏線です。松平の両親も柏木さんも演劇部の部長も可南子や乃梨子も、そしてもちろん祐巳瞳子を愛していることが今巻で細やかに描写されました。そして、今巻の最後で乃梨子という希望を得て彼らの愛と祝福を受け入れる準備が整ったと思います。
あとはどう着地するか。瞳子が家出した直接的な原因とその後の生徒会選挙出馬の本当の意図など見えていない部分はあるわけですが、第二次レイニーとも呼ばれている姉妹問題が、近々ようやく最高の形で決着しそうだなと思いました。

何にせよ今巻も大変エキサイティングで面白かったですし、次巻も大変楽しみとなる内容で個人的には大満足です。あとがきで「次巻か次々巻でやろうと思っていたこと」というのが少々気になりますけど。ひょっとして次巻でも決着しない?まあ面白ければ万事OKということで。